川上和人『鳥類額はあなたのお役に立てますか?』(2021)

『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』というラノベみたいなタイトルの本で有名な川上先生の最新の本を読みました。

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概要

川上先生は森林総合研究所にいらっしゃる方で、すごく大雑把にいうと野外で鳥を中心的に色んな野生動物を観察し、そういったデータをもとに生態系や固有種について研究している方です。

この本では、川上先生が行った離島での研究の体験や、そこで得られた成果を紹介することを通じて、今問題になっている絶滅危惧だったり生物多様性についてとても身近な問題として、経験したかのような感覚を持たせてくれるものだと思います。

この本では、先生が研究対象としていたオガサワラカワラヒワという鳥がよく登場しています。この鳥はこれまでカワラヒワという鳥の中の一部(亜種)として考えられてきましたが、2020年にカワラヒワとは違う種であるということが遺伝子の解析から確かめられ、日本の固有種の仲間に加わりました。それと同時に、今後一番最初に絶滅する種だろうともいわれています。この鳥の話を通じて、「種」とは何か、動物が絶滅してしまうとはどうゆうことなのか、と考えさせられるのではないのかなと思いました。

 

感想

この本では、過去の調査についての話を出しつつ、科学的に『考える』とはどうゆうことなのかを教えてくれています。例えば、ツノが生えている鬼は草食動物なのか?、恐竜は泳げないのか?・・・こんな一見どうでもいいような話を出しつつ、仮説を立てて確かめるとはどういうことか、その仮説が正しいかをどうやって考えればいいか、そんな道筋を示してくれます。もちろんこんな他愛もない話題(失礼ですが)で終わるのではなくて、読者を訓練した後で本番の、実際の現場でたてた仮説の話や、もっと大きな外来種って何だろうとか、なんで環境を守らなきゃいけないんだろうとか、そういった話につなげているのがとても秀逸だったなあと思いました。

 

先ほども触れたオガサワラカワラヒワなのですが、この鳥はすごく地味です。カワラヒワもものすごく地味です。私は初めて雌雄の判別ができるようになった鳥がカワラヒワなので、個人的にはとても思い入れがある鳥なのですが、それでもとても地味です。野鳥をなんでも飼育していいよと言われても誰も選ばない鳥だと思います。

ですが、この本では何度も何度もオガサワラカワラヒワの話が出てきて、見たこともないのにとても詳しくなってしまいます。不思議なもので、詳しくなると好きになってしまうものなんです。きっとこの本を読んだ人の半分くらいはオガサワラカワラヒワが好きになるだろうし、そうじゃない人でも「オガサワラにいる地味な固有種」くらいの記憶としては残るんじゃないかな。

基礎研究は、正直なところ役には立ちません。でも、オガサワラカワラヒワが好きになった人は、きっと何があっても自分が飼っているペットを山や川に捨てないと思います。この本を読んで楽しいと感じた人は飼育が禁止されている野生動物を無理に輸入したり飼ったりしないと思います。生態系の研究それ自体を直接役立てることはなかなか難しくても、その研究を知って面白いと思ってくれた人の行動や思いを変えることはできて、その結果明日の世界が今日よりももうちょっとだけよくなっているのかもしれないと思ったりさせてもらいました。